冬になると、宇宙はどうなるんだろう。
宇宙にも季節はあるんだろうか。
真っ暗だし、凍ってしまうのではないか。
そもそも四季があるのは日本が特殊なんだよと、ももち先輩が言う。
宇宙には、温度がない?
いや、宇宙でも、太陽の近くは温度が高くて、太陽から離れた惑星は温度が低いはず。
じゃあ、太陽の存在しない宇宙は何度になるんだろう?
太陽系の外、銀河系の外、そこは温度がマイナスなのか? それとも高温?
ふなちゃんと私は、今日も新しい謎に頭を悩ませていた。
宇宙のことを考えるのは楽しい。
いくらでも想像していられるし、その疑問が尽きることがない。
だってみんな疑問に思わないんだろうか。
山の上、雲の上、普段見ている空のほんの少し上には宇宙が広がっていて。
それはいつからあったのかわからず、何があるのか、ないのか、果てしなく途方もない謎があるのに。
悲しいお知らせ。
ふなちゃんは宇宙トークをやめてしまうという。
ふなちゃんはすぐに引退宣言をする。
だけど本気度合いが伝わってきたから、私も泣く泣くそれを受け入れた。
そこで私は、ももち先輩を相手に宇宙トークをすることにした。
ももち先輩は、最初、仕方なく話に付き合っているみたいな、あまり気乗りのしない風だった。
でも、プラネタリウムの話をすると、途端に食いついてきた。
「女は単純だから」と、りさちゃんが以前どこか冷めた目で言っていた気がするけど、なんていうか、そういうものだなと思う。
私とももち先輩が話していると、ちぃはその傍で「栃木はめっちゃ星が見えるよ!」と何度も言っていた。
しかし、その意見は当然のように通らなかった。
そして、今度の休みにももち先輩と二人でプラネタリウムに行く約束をした。
荷物を足元に置いて、椅子を後ろに倒す。
すると、なんだかキャンプみたいだねと先輩が言った。
「確かに!」
「でしょお?」
ももち先輩は先に寝転がってにやにやしている。
キャンプだと思うと、途端に楽しくなってきた。
ここはプラネタリウムではなくどこかの草原で、そこにピクニックシートを敷いて、私と先輩が、隣同士で寝転んでいる。
渋い声で星々の解説のナレーションが入る。
BGMは心地よく、昨日のイベントの疲れからか、少しうとうとしてくる。
「綺麗だね……」
夢心地になっていると、先輩がポツリと言ったのが聞こえた。
私は大きく頷いてみせた。
ここは宇宙で、広大なその一部の中に私たちがいるのだ。
その中の私たちは本当に小さい。
これから私たちの距離がほんの少し離れてしまうことなんて、宇宙からすれば隣同士でいるのと何も変わらないことだ。
きっとそうだ。
何も、変わらないことなんだ。
これ以上息を吸ったら、込み上げるものが溢れてしまいそうだった。
歯の奥をぐっと噛み締めながら、プラネタリウムの夜空を見上げていた。
「舞ちゃんって、ほんとにロマンチストだよね。さっき泣きそうだったでしょ」
下に降りて、建物の入り口近くにあったカフェに入ると、ももち先輩はそう言って笑ってきた。
「そうですかぁ? 普通ですよ、普通。星を見たらみんなそうなります。宇宙は無限なんですから」
「ま、プラネタリウムだけどね。そういうとこ好きよ」
先輩は私の肩をポンっと叩いた。
「背、伸びたねえ」
「うーん、舞的には、あんまり変わった気がしないです」
「自分じゃわかんないもんだから、こういうのは」
大きくなったよ、舞ちゃんは。
ももち先輩は、白いマグカップを両手で包み込むように大事に持ち上げた。
ももち先輩のそういうところが大好きなんだと、改めて舞は思っていた。
「一瞬は永遠で、永遠は一瞬なんですよ」
今日はやなみんが、授業で習った宇宙の話というのをしてくれた。
やなみんのおしゃべりというより、やなみんの授業という感じだ。
喋りに入る隙がなかなか見つからないので、舞はよく飽きてしまうのだけど、今日の話は結構面白い。
「結局永遠なのか一瞬なのかわけわからへん」
「あのね結。結は正反対のことに思うかもしれないけど、この二つはとても似ているものなの」
やなみんは説き伏せるようにふなちゃんへ語りかけた。
梨沙ちゃんとももち先輩は目配せをしていた。
ちぃだけがよくよく頷いて、やなみんの話を真面目そうに聞いていた。
私たちの今日は一瞬で、宇宙の永遠の一つだった。