部屋でパズルをしていた。
電車の広告くらいのサイズのものだ。
思いつきで始めたから、そこまで大きなものではない。
八割くらいそれを作り終えたところで、一枚になりつつあった板を、剥がすようにバラバラにした。
つくるのには二時間以上かかっていたけれど、壊すことにあまり抵抗はなかった。
まとまったままのピースを、一つひとつちぎる。
片づけとは違う。
あのめんどくさい気持ちはしない。
こうやってばらばらに崩すことも、私にとってはパズルの遊びの一部なんだと思う。
ピースをちぎりながら、背中を壁にくっつける。
剥き出しのコンクリートがひんやりとする。
その向こうにいる人が何をしているのかを考えた。
多分、音楽を聴いている。
今日は何もない平日で、おまけに休みを伝えられたのは昨日だった。
音は聞こえてこないが、それくらいしかやることがないだろう。
私がパズルをしているのだって、同じような理由だ。
箱にピースを入れ終えた。
私はその箱を持つと、立ち上がって部屋を出た。
廊下に出て、左手を向く。三歩進むとすぐにリビングだ。
そこには広々としたアイランド型のキッチンがある。
その広さに見合うような、無駄に大きい両開きの白い冷蔵庫が置かれている。
中には何故か、スポーツドリンクの2リットルペットボトルしか入っていない。
仕方なく、それを両手で持ち上げて、コップに注いだ。
お盆にコップ二つと、パズルの箱を乗せて、廊下に戻る。
そして、隣の部屋の前に立った。
「開けてー」
手が塞がっていたので声を上げた。
一、ニ、三、四のリズムで扉が開く。
「どしたの」
さきちゃんの部屋には音楽が流れていた。予想通りだった。
とはいえ、音楽を流したまま何かをしていたのかもしれない。
それ以上はわからなかった。
「パズルしない?」
「あー、パズル。やりたい」
平坦な声で彼女は言う。
それはむしろ本気で乗ってきてくれている証拠だ。
「でしょ。飲み物も持ってきたよ」
「スポドリしかなかったでしょ?なんか買ってくる?」
「パズルはスポーツだよ」
「なにいってんの」
部屋に招き入れられ、お盆を床に置く。
すかさず私はベッドに飛び込んだ。
「あー。いいね。いいよ。うん」
「ちょっと、もも」
「落ち着くねえ。うん」
さきちゃんの枕に顔をうずめる。
「その枕までとらないでね」
「えぇ?いいじゃん、枕の一つや二つ」
「困るの!枕がないと!寝れないでしょ!」
既に私の部屋にはさきちゃんの枕が一つあった。
だけどずっと私の部屋に置いておくうちに、さきちゃんの感じが薄くなってしまっていた。
そろそろ更新しないとなと思う。
さきちゃんのベッドで足をひとしきりばたばたさせてから、私は床に座り込んだ。
さきちゃんはやれやれと言った様子で、折りたたみ式のテーブルを目の前に出してくれた。
透明なガラスのローテーブル。
コップは邪魔にならないよう、床に置いておく。
それからテーブルの上にピースを全部広げた。
「はじめよっか」
さっと角の四つを置いて、さきちゃんはそう言った。
二人は黙々とピースを埋めていく。
手が四つ見える。
パチ、パチ、とピースがはまっていく音がする。
音が途切れることはない。
二人でやると、あっという間だった。
「ねえ、そっちにない?」
さきちゃんはテーブルの下やベッドの下に手を入れて、残りのピースはないかとまさぐっていた。
「ないよ」
「うそー、最後の一個なのに」
「ううん、さきちゃん」
私は横に首を振る。
「このパズル、最後のピース、元々ないんだ。どっかいっちゃったみたい」
「えー。すごいむずむずするんだけど」
「うん、でも、このパズル、やりたかったの」
そう言うと、さきちゃんが目を合わせてきた。
「自分一人だと、そのピースのこと思い出しちゃってやる気なくすじゃん。でも、やりたかったから」
部屋がしんとした。
私は何か、とんでもなく重大なことをしてしまった気がした。
不意に立ち上がって、その雰囲気をごまかすように、スピーカーのスイッチを入れた。
部屋にうるさいくらいの音が響く。
すぐには耳が慣れない。
「うちの好きな曲、持ってきていい?」
「うん」
さきちゃんが頷いた。
「ありがとう」
じゃあ片付けようか、二人はどちらともなくそう言って、一つだけ欠けたパズルを崩し始めた。